凸凹さん(発達障害児・者)の防災対策~特性を活かした備えで孤立を防ぐ~

※2017年9月10日に本記事に関連した防災体験学習を行いました。詳しくは下記の活動報告をご覧ください。

2017年6月15日に、愛知県刈谷市のNPO法人「ぎふと」さんからのご依頼を受けて講演会とシンポジウムを担当させていただきました。イベントの概要は下記の記事をご覧ください。

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本記事では当日の講演内容の要点や、シンポジウムで出てきた質疑応答、アンケート内容等について詳しくご紹介します。凸凹(発達障害等)さんやそのご家族、支援者の方などの備えの参考になれば幸いです。

いつもの生活に「プラス防災」をキーワードに

講演テーマは「今日からできる!みんなにできる!いつもの生活にプラス防災」としました。”防災”と聞くと○○しなければならない、○○になったら大変だ、というなんとも言えないプレッシャーを感じてしまい、考えるのも嫌だなぁという方も少なくないと思います。そこで今回は防災の基本的な部分についての内容は資料ベースにさせていただき、筆者自身の体験談や子どもとの接し方、家庭での備えなどで普段からどんな「プラス防災」をしているかについてを中心にお話しました。

いちばん伝えたいのは「孤立」しない、させないこと

最初にメッセージとしてお伝えしたのは「孤独と孤立の違い」です。簡単にまとめれば、孤独とは身体が”ひとりぼっち”、孤立は心が”ひとりぼっち”な状態と言えます。前者は物理的であり、後者は精神的・社会的なものです。孤独は誰にでも、特に凸凹さんにとっては必要なこともあります。ただ孤立は支援の遅れ、状況・症状の悪化、本人や家族の心身の負担につながりやすく、改善には時間もかかるので予防が重要になります。孤立の原因にはいろいろなものが考えられますが、一番大きいのは「コミュニケーションの不足」です。

凸凹さんや家族からすると心配事はあるけれど、何を備え、どう解決すればいいか分からない。
地域の方からすると、凸凹さんやご家族にどう接したらいいか分からない。

そんな状況から、お互いに様子見のようになってしまっているな、と感じることがあります。発達障害だけに限りませんが、社会福祉的な視点で考えると「(孤立しない・させないためにも)当事者(家族や支援者を含め)からどんどん発信して欲しい!」というのが、伝えたいことの中心です。障害についての理解は、ご本人や家族が思う以上に、社会的に広がっていません。誤解もたくさんあります。当事者側からの積極的な発信は、孤立の予防はもちろん、社会的な理解を促していくためにも欠かせません。

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(発達障害と防災について学校・家庭・地域にもっともっと広がって欲しいです)

自分が守りたい「大切」に気づけば、防災が見えてくる

具体的に凸凹さん家庭でどんな備えが必要か、という点についてはまず『防災』とは何かということからお話しました。下記の記事でも紹介していますが、筆者は「大切なひと・もの・ことを守るためにする、あらゆる行動」と定義付けしています。

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防災について知りたければまず「守りたい、大切なひと・もの・ことは何か」に気付くことが重要だということです。それらを意識せずに防災をに取り組むのは、どこまで走るか考えずに走り始めるマラソンみたいなもので、体力的・精神的にもツラくなってきます。感覚的には分かるかもしれませんが、いざ聞かれると意外と言葉や文字にするのが難しかったりします。今回は、実際にそれぞれについてメモに書き出してもらいました。本記事をご覧の方も、ぜひ一度自分の手で書き起こしてみてください。防災というものが、ぐっと身近に感じられると思います。

あとはそれぞれのために自分が何ができるかを考え、行動あるのみです。何ができるか分からなければ調べるたり人に聞く。分かったらやってみる。やってみてうまくできなければやり方を変えてみる。その繰り返しです。

その過程は、凸凹さんとご家族にはとても日常的なことではないかな、と思うのです。

不安に立ち向かうために、正しい知識を身に付ける

筆者は防災教育関係団体の事務局長という立場があります。そこで重視しているのが「科学的根拠に基づく」ということです。科学的根拠とは明確な「事実」であり、人聞きの「伝聞」や主観的な「意見」とは異なります。

地震や災害についての歴史的な事実を知ることや、自分が住んでいる地域のハザードマップや過去の災害について知ることが、この「科学的根拠に基づく正しい知識」になります。どうしても「○○の場合はどうすればいいか」ということだけを先に知りたくなってしまいますが「○○の場合」というのは状況によって様々なのです。ある災害のある場面では正しい行動が、別の災害の別の場面では危険な行動になる可能性だってあります。

重要なことは「○○の場合どうすればいいか」の○○の前提となる知識をきちんと身に付けることです。一番分かりやすくて確実なのが、自分が住んでいる市区町村や都道府県が発行している防災マップやハザードマップに目を通して内容を理解しておくことや、防災や福祉の体制や施策について知っておくことです。

地味で面倒だな、と思われるかもしれませんが、そうして培った「基礎体力」は生きる力につながることは間違いありません。

特性を活かした備え、5つの言葉で

すぐにできる!みんなにできる!プラス防災のポイントを5つの言葉で表現してみました。

「ここにいても、いいんだよ」

凸凹さんと家族にとって、災害時に不安なことのひとつが「居場所がないこと」です。被災することで自宅にいられない。通所している施設等にいけない。いつもの場所で遊べない。慣れない場所で生活をしなければならず、避難所では凸凹さんの特性が、周囲の人から迷惑がられてしまう。どこにも自分の居場所がない。そうならないためには「居場所」が必要です。

「居場所」には2つの考え方があります。1つは既存の場所を工夫して使うこと。例えば避難所等でもスペースや環境を工夫できれば、凸凹さんが生活しやすくなります。もう1つは新しく場所をつくること。例えば車中泊やテント泊のように、自ら場所を創り出すことで生活環境を整えます。前者は工夫に限界がある半面、支援や情報が手に入りやすいというメリットがあります。車中泊やテント泊は、自由度の高い工夫ができる変わりに、支援や情報から「孤立」してしまう可能性が出てきます。

いずれにしても重要なのは「ここが自分の居場所で、ここにいてもいいのだ」と思える場所を見つける・創ることです。

「今日は○○をやってみよう!」

災害時はとにかく忙しくてやることが多い、というイメージがあると思います。もちろんそういう時もありますが、一方で「何もすることがない」あるいは「したくてもできない」、「待っていなければならない」という場面も多いのです。これは実際に避難生活をされた方や、支援の現場をある程度長期間、見ている方でないと気づきにくいかもしれません。ですが、避難生活をしていれば、そうした時間は出てきます。ヒマを持て余してしまうような時に、どんなことをして過ごすかを予め想定しておくと、いざという時に役立ちます。

ちなみに、わが家では「身体ひとつでどこでもできること」と「モノがあればできること」に分けて、いくつか整理しています。ヒマを持て余したときだけでなく、落ち着きがないとき、問題行動が見られるようなときなどにも役立ちます。

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「これがあれば、安心だね!」

地域全体が被災するような大規模災害の場合、ほぼ確実に物流が影響を受けて品不足になります。お金があっても品物が無ければ買えません。一般の人には大したものではなくても、凸凹さんにとってはかけがえのないものというのがあります。いわゆる非常食や飲料水、携帯トイレ等の備蓄はもちろんですが「わが家の凸凹さんにとって欠かせないもの」を備えておくことも重要です。

わが家では「じゃがいもを使った固めのスティック型お菓子(上図に出ちゃってますが)」や「おもちゃが出てくる入浴剤」、「ガチャガチャのカプセルケース」などがたくさん「備蓄」されています。”防災アドバイザー”みたいな方は恐らく備えていないでしょうし、備えようとも言わないでしょうが、わが家では災害が起きようとも欠かせない、大切な品なのです。

「なんとかなる!だいじょうぶ!」

災害がおきて不安なのは、凸凹さんだけでなく家族や支援者も同じです。ですが、家族や支援者の不安・ストレスなどは、凸凹さんは敏感に感じ取ります。急に態度が荒々しくなったりするときは、家族や支援者側の態度がそうなってしまっていることもあります。家族や支援者としてはいつも通りで接しているつもりでも、災害のあとにいつも通りでいられる人などそうはいません。知らず知らずのうちにストレスが伝わっているかもしれません。

不安やストレスを完璧にコントロールして接することは不可能です。ですが「何が」不安やストレスの原因になっているか、「どれくらいの」不安やストレスなのかを可視化することはできます。NPO法人ぷるすあるはさんが公開している 気付きのワーク などは家族・支援者も含めてとても分かりやすくて役立つワークだと思います。

凸凹さんのためにも、家族や支援者自身がまず不安やストレスを可視化し向き合うことが必要です。災害によって失うものもたくさんあるかもしれませんし、完全に元通りにはならないかもしれません。それでも、いつかは復旧・復興します。「なんとかなる!だいじょうぶ!」そんな言葉を自分に言い聞かせることも大切です。どうしても辛い時は抱え込まずに行政や支援団体、ご友人などでも、相談してみてください。もちろん、筆者もできる限り、お手伝いさせていただきます。

「できるようになったね!」

最後の言葉は、凸凹さんと関わる方がとても大切にしている言葉ではないかと思います。少なくとも、筆者はとても大切にしています。凸凹さんも、家族や支援者も災害と向き合うだれもが、いつもとは全く違う「被災後の社会」で生活します。今までやったことがないことに挑戦することも、少なくないでしょう。そのひとつひとつを大切にしていただきたいのです。

例えばいつもと違う状況でトイレに行くことができた、眠れた、ご飯が食べられた。普通の人にとっては当たり前でも、慣れない環境が苦手な凸凹さんにとっては、素晴らしい出来ごとになります。ちょっとしたことでも、一生懸命適用しようとする、生きる力・生きようとする力を感じ、認めることが凸凹さんや家族の力になります。

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市・支援団体・当事者家族・参加者が意見交換

講演の後は休憩をはさみ、シンポジウムが行われました。刈谷市危機管理課の方、発達支援が専門である主催団体代表者の方、保護者代表の方にご登壇いただき、筆者はコーディネーター兼コメンテーターのような形で進行しました。関係者への質問は事前に参加者の方や団体メンバーの方から集めており、その質問に則ってそれぞれが回答するという方式でした。冒頭は当日参加できなかったものの、市保健センターの保健師さんからもご回答いただいていましたので、そちらは団体の方にご紹介いただきました。

事前の質問と関係者からの回答

事前の質問については主に市の方からご回答いただき、その後、保健師の方(代理)からご回答いただきました。以下に簡単にまとめます。

質問:自宅(在宅)避難でも支援は受けられますか?

回答:避難者登録をして、必要な物があれば受け取ってください。

家屋被害を受けてやむを得ず避難所にいる方と、家屋に被害はなく情報や支援が必要で避難所にいる方がいます。その時に同じように支援を受けることに対する不公平感、不満があったというお話を聞いてのご質問でした。同様のケースは阪神・淡路大震災以降、必ず話題にあがります。行政支援は「平等」であることが前提ですが、平等にするラインを「被害をどれだけ受けたか」にするのは困難(り災証明書の発行などを待ってはいられない)です。そこで刈谷市では「避難者登録」という一つの線引を設けているので、登録した方(事後も含め)は平等に避難者として扱いますよ、ということです。

質問:公道や公園で車中泊やテント泊ができますか?

回答:公道は緊急車両が通るので無理かもしれない。学校のグラウンド等は活用できる。

公道や公園は市や都道府県の管轄ですが、どちらも災害時に緊急車両交通路や支援拠点となる場合があります。特に道路は影響が大きく、行政に指摘されなくても近隣とのトラブルになる可能性が高いです。公園や学校については状況によると思いますが、管理者の指示には従わなければなりません。また水分補給や足のマッサージなど、エコノミークラス症候群を予防する大切さについても紹介がありました。

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(質問への回答メモ。字が汚くて申し訳ありません…。)

質問:施設利用など、福祉サービスの状況はどうなりますか?

回1:行政支援は国や県の通知に応じて行う。手続きは市の災害対策本部で。
回2:3,815名が要援護者登録しているが、平時からの訓練などは欠かせない。
回3:市としては、地域防災リーダー育成に取り組んでいる。

前述のように行政支援は「平等」である必要があります。各事業所の備えで対応できる部分もありますが、サービスの自己負担額であったり、適用条件であったりは法制度に組み込まれている場合もあります。その場合、国・都道府県などがそれぞれの責務において法律・条例などを災害に応じて緩和するなどの柔軟な対応が必要になります。市区町村はその通知を受けて周知し、対応にあたります。要援護者登録も名簿登録だけではなかなか実際の運用が難しい場面もありますので、名簿や制度を活用した訓練や研修会などの実施が重要になります。

質問:保健センターや保健師さんは支援してくれますか?

回答:センターに備蓄はないが保健師が避難所を巡回する。その後はセンターで窓口対応になる。

はじめに、団体代表者の方が元保健師さんということで「保健師」の役割等についてご説明いただきました。
刈谷市では指定の医療救護所に保健師の方が参集し、適宜、避難所を巡回されるそうです。災害時の安全衛生活動が主な活動になります。個々の生活相談等は、ある程度時間がたってから、保健センター等の窓口で対応することになるそうです。

「体験」の機会を大切に

団体代表者の方からは凸凹さんが「はじめて」の体験は不安であったり、怖かったりすることも多いということ、そのためにも事前に体験する機会などを大切にして欲しい、といったお話がありました。2017年9月10日(日)には、団体主催の防災体験会が予定されていますので、そのアナウンスも行われました。

まとめ~”特性”はわが家だけの防災対策ポイント~

今回の講演にあたって、筆者自身も子どもたちとの関わりの中でいろいろ考えました。確かに「◯◯がニガテだから、▲▲だと困るよな」ということもたくさんあります。でも「◯◯がニガテ」ということが分かっていれば、どうしたらそうならないか、どう代替できるかを考えて備えることができます。

それ以上に、筆者は父として子どもたちの「☆☆が大好き!」を誰よりも知っています。だから、災害が起きても「☆☆」ができるようにしておくという備えもできます。

凸凹さんのいろいろな特性は「不安材料」ではありません。どんな専門家やアドバイザーよりも的確な「防災対策のポイント」を教えてくれているのです。普段からご家族や支援者の方がそうしているように、防災対策に関しても凸凹さんの特性をよく観察し、接してみてください。きっと、備えのポイントが見えてくるはずです。

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(その場の質問はグルーピングして、まとまり毎に回答させていただきました)

アンケート集計結果と御礼

参加者の方にアンケートをお願いし、22名の方からご回答いただきました。感想やご意見の中にもヒントがたくさんありますので、ぜひご参照ください。ダウンロードは こちら  をクリックしてください。実施にご協力・ご尽力いただきました主催団体の皆さま、当日ご参加いただいた皆さまにこの場を借りて御礼申し上げます。本記事が凸凹さんやご家族の防災対策のヒントになれば幸いです。

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