災害ボランティアセンターの基礎と訓練用教材の紹介

本稿での災害ボランティアセンター及びスタッフの役割については一般的なもので、被害の特徴や運営主体となる社会福祉協議会及び関係機関の対応により異なる場合があります。また法律・条例・制度の変更等により呼称が異なる場合もありますので、ご注意ください。

2020年7月現在、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止対策が災害ボランティア活動全般にも影響しています。詳細につきましては、JVOADガイドライン集をご覧ください。

◯ ガイドライン|JVOAD

資料集やアンケートだけすぐにダウンロードしたい方は「コンテンツ一覧」を表示して「災害VC訓練用プログラム教材の開発・提供」をご覧ください。

目次

災害ボランティアセンターとは

災害ボランティアセンター(以下「災害VC」)とは、大規模災害が発生した際に、被災した地域・住民を支援しようと駆けつけるボランティアの力を有効に活かすために、支援を必要とする人(活動先)と活動を希望する人(活動者、ボランティア等)をコーディネートする役割や活動中の安全衛生管理などを担い、被災地域の復旧・復興支援に取り組む組織のことです。

常設(災害が起きる前から)されている地域もありますが、ほとんどは災害が発生した後に、地域の福祉活動に取り組む社会福祉協議会(以下「社協」)等により、自治体との協定に基づき開設されます。

注意しなければいけないのは「ボランティアセンター(市民活動センター等ともいう)」は常設されていることが多い、ということです。同じ「ボランティアセンター」でも「災害ボランティアセンター」とは役割が異なります。ほとんどは社協の中で運営されていますが、独自に設置されている場合もあります。地域のボランティア活動全般(災害ボランティアも含めて)を「ボランティアセンター」もしくは類似の組織が担うことが多いです。

一般的に略して「ボラセン」と言っています。より詳しく知りたい方は、最寄りの市区町村社協を調べて、お問い合わせください。筆者がご縁のある杉並区社協さんの関連リンクをご紹介しておきます。

関係機関や団体の整理

まず災害VCに関わる機関や団体を整理しておきましょう。

▼都道府県(行政)
都道府県は危機管理・防災課等が「災害対策本部」を立ち上げ、ボランティア(市民活動)や医療福祉、教育等に関わる各部署が災害対策本部と共に災害対応にあたります。都道府県の枠を超えるような大規模災害時の広域連携調整などで関わることが多いでしょう。ご存知の方も多いかと思いますが、首長の判断や発言が災害VC運営や広域連携に大きな影響を与えることもあります。都道府県社協と共に平時から連携しておくことが求められます。

▼都道府県社協
県域での災害VC(災害ボランティア本部等ともいう)を開設・運営したり、都道府県や他県、市区町村社協による災害VCの連絡調整を行います。よく勘違いされるのが「都道府県社協は市区町村社協の上部組織」といった考え方です。あくまで市区町村のことは市区町村のことであり、都道府県社協の指示命令に従うといった関係ではありません。

▼市区町村(行政)
市区町村は都道府県と同様、災害対策本部や関係部署による対応を行います。市区町村の社協や関係組織と地域防災計画等に基づく協定を締結し、災害VCの開設・運営に関わります。市区町村社協の災害VCマニュアルでは「市区町村からの要請を受けて」開設する、という項目が含まれていることが多いようです。

▼市区町村社協
災害VCの実務的な運営を担います。市区町村をまたがる被害が出ることもあるため、近隣社協との連絡調整や、災害VCの設置場所と被災場所の中継地点となる「サテライトセンター」の運営も行います。但し市区町村社協の人員では到底対応しきれないため、県域を超えた社協職員やボランティアの応援を受けながら対応します。

人件費(社協職員の手当や臨時職員への賃金)や旅費(災害VCに派遣する職員に係る)ついては令和2年7月豪雨以降の災害については災害救助法の国庫負担対象となりました。
◯ 災害ボランティアセンターに係る費用について.pdf|内閣府(防災担当)

▼各種連絡会・協議会、職能団体、広域ネットワークなど
県域、市区町村で「連絡会・協議会」を設置し、連携体制を整えている地域もあります。社会福祉士会や介護福祉士会などの職能団体や、専門NPO・NGO等による広域ネットワーク組織等も災害VC運営に関わることがあります。

迅速かつ効果的な支援のための「広域連携」

災害VCは社協職員や、上記の関係団体が連携して開設・運営されます。ですが、災害によって被災地の社協及び職員が被災することもあります。そうした場合に備えて、関係団体などによる広域連携による職員の応援派遣などの支援も行われます。

被災地の社協に全国から他地域の社協職員やボランティア等が駆けつけ、災害VCの運営支援などに携わっています。その経験を全国的な支援体制として整えよう、という動きもあります。課題は様々ですが、経験豊富なNPO・NGOや内閣府(防災担当)も関わりながら、そのような体制が検討されています。災害VCは被災者支援の中核的な役割を担い、行政対応が行き届かない細やかな生活上のニーズに対応していくうえで重要な組織だと認識されている、と言えます。

だからこそ「外部からの支援をどう受け入れるか」という『受援(じゅえん)』の考え方も重要になるですが…これはまた別の機会に。

設置・立ち上げ、運営、閉所や閉鎖(移行)という表現

細かいことですが大事なポイントです。災害VCは原則として被災地の社協が『設置』します。『設置』とは「私たち(都道府県または市区町村あるいは両方)は◯◯(場所)に災害VCを開設しますよ!」と公に発表することです。災害VCを立ち上げることと、その場所が決められたという状況です。

『設置』の判断は各社協のマニュアルに定められていますが、原則として自治体の要請に基づく社協内の災害対策本部(社協の会長、役員、事務局長等で構成される。自治体の災害対策本部とは異なります)の判断で行われます。概ね、災害発生から24時間以内に判断されます。

▼設置・立ち上げ
『設置』は立ち上げと場所が決まっただけで、中身は空っぽの状態です。次に『立ち上げ』に移ります。『立ち上げ』の段階で、指定された場所への人員配置(職員や支援者のスケジューリング・労務管理等)や資機材搬入などを行います。災害VCが機能できる状態にします。概ね『設置』から72時間以内に『立ち上げ』が行われます。

▼運営
次に『運営』です。『立ち上げ』された災害VCを、閉所または移行するまで継続していくことです。次項で示すような役割を担いながら、被災地・被災された方の生活支援を中心に活動します。

▼閉所(移行)
最後が『閉所(移行)』です。災害VCはあくまで災害によって被災された方の生活支援が中心です。そして、その支援が”通常の社会福祉協議会の福祉的業務”や地域住民同士の互助で行えるようになり内外からのボランティアの必要性がなくなる(あるいは相対的に小さくなり、通常のボランティアセンター活動で対応できる)ようになれば、閉所・移行の時期です。『閉所、閉鎖』という表現だと「もう何もしてもらえないのか」という印象をあたえることもありますので、「復興支援センター」というように名称を変えて『移行』する場合もありますし、社協や常設のボランティアセンターの中に機能が取り込まれる場合もあります。

災害VCの主な役割

災害VCの主な役割は以下の5つが一般的です。他にもいろいろな考え方がありますが、まずこの5つをなるべく早急に行える態勢づくりが重要と言えます。

(1) 被災された方、地域の現状をできるだけ細かく把握・整理すること
(2) 災害ボランティアに関する情報収集・発信
(3) 被災された方からの要望、ボランティア依頼(ニーズ)の把握
(4) ボランティアコーディネート(調整)機能の発揮
(5) 行政や関係団体・機関との連絡調整

運営に係る主要業務の7分類

ここで示す各班の名称、業務は一例です。詳しくは最寄りの社会福祉協議会、ボランティアセンターで作成されている、災害ボランティアセンターのマニュアル等をご参照ください。

本記事では主要な業務を7つの「班」で編成しており、関連業務を「係」として分類しています。これは組織的な危機管理・対応においてかねてから国内でも導入が必要とされているICS[Incident Command System,米国で生まれた現場指揮システム、警察・消防・軍など異なる組織が連携して活動できるよう、命令系統や管理方法が標準化される]において、指揮者・管理者が管理できる部下の人数が3人~7人と想定されていること、概ね5人程度が最善であることなどを考慮しています。

センター長、副センター長、班長会

センター長、副センター長及び班長会(スタッフミーティング)は、災害VC全体の統括や方針、意思決定が主な役割です。基本的には各班長からの報告・連絡・相談をもとに決めていきますが、各班長からの情報は他班に関わることもあります。

センター長や副センター長の一存では解決できること、できないことがありますので、必要に応じて班長会を臨時で開く、行政や関係団体との会議を開くことも重要です。いざというときに体調を崩したり、相談したいときに見つからなかったりすると大変です。どっしり構えてもらい、必要な時にすぐ対応していただけることが重要です。

総務班

◆ 総務・会計係

災害VCはボランティアと被災者(ニーズ)をつなぐ、という役割を果たすために、それぞれへの対応だけでなく組織的・継続的運営のための様々な事務処理が発生します。前述した関係団体との連絡調整に係る文書作成や連絡調整、財務会計に関する事務などです。

業務内容が内容だけに、原則として社協職員が担うことが多いようです。財政や会計に関する専門的な知識がある、活動経験が豊富と(自称する)いう場合でも、見ず知らずの外部ボランティアなどに財務会計や重要な連絡調整を任せることは困難です。職員が担えるよう、日頃の教育訓練が求められる役割です。

◆ 情報・広報係

被災地の情報収集やチラシ、ホームページやSNSを使った情報発信・広報などを行います。昨今ではホームページやSNSを調べて被災地に行くことが当たり前になっています。ホームページやSNSへの記載内容やタイミング次第で、その日その週末のボランティア数が大きく増減することがありますので、災害VCの広報周知を考えるトレーニング・プログラムがあるほどです。

また、地元メディアとのお付き合いも重要です。ボランティアや何らかの支援が必要な場合、個人レベルでメディアに情報が届くと後でトラブルになることもありますが、きちんと災害VCや災害対策本部を経由して情報共有しておくことが効果的な支援につながります。初期は大手メディアが入ることが多いかもしれませんが、最終的な住民支援の力になるのは地元メディアです。情報・広報係の大切なパートナーと言えるでしょう。

◆ 総合受付係

災害VCにはひっきりなしに各方面から電話がかかってくることもあり、専属の半編成をしたほうがスムーズです。行政・社協等の本部からの情報、ボランティアや外部団体からの問い合わせ、被災された住民からの連絡など様々です。速やかに対応しながらも、重要な情報はきちんと記録・伝達することが求められます。

この時点で各班に情報をまわしても具体的な対応は難しいので、確認が必要なことは総合受付から各班へ確認し、回答するようにします。規模が大きい場合は総務班から独立させる方法もあります。

ニーズ(ボランティア依頼)班

◆ ニーズ係

総合受付からのニーズ依頼を精査、必要に応じて確認してニーズ票を作成します。ボランティアに対する指示・連絡のベースとなるので、ニーズ票を分かりやすく具体的にする、関係する資機材や情報を整理しておくなどが求められます。

◆ 地図作成係

予め災害VCまたはサテライトセンターが担当するエリアの住宅地図をもとに、地図のベースを作成しておきます。ベースに記入するなどして、ニーズ票に添付する活動先地図などを作成します。

近年は被災地でも電源・インターネット等の環境が整っている場合も多く、ボランティアもスマートフォンやタブレットを持参しているので、QRコードを作成したりナビを活用したりしています。ただ、それらが使えない方もいるのでアナログ地図の作成も重要です。

◆ 現地調査係

ニーズ票、地図を基に活動先の状況を調査します。ボランティア依頼が本当にボランティアで対応できる作業なのか、期間や人数、資機材、アクセス、依頼者の状況などを確認します。この確認がないとボランティアを派遣してもうまく活動できない、トラブルが起きるといったことが想定されます。

このため「ボランティア依頼からボランティア派遣には2日以上かかる場合もある」ことを念頭に置くことが必要です。

ボランティア受付班

個人、団体のボランティアの受付や登録作業、ボランティア保険天災コースの加入確認、名札作成、集計などを行います。時間によって業務量に差があり、一般的には朝の受付時がピークで、以降は集計作業などが中心となり、余裕があれば他班のサポートなどを行います。

コーディネート班

◆ オリエンテーション係

ボランティアに対するオリエンテーション(ルールや流れ、注意事項の説明や各種案内等)を担当します。人数が少ない場合は他班・他係兼務でも良いのですが、ボランティアの人数が増えてくる(500人~1,000人以上/日など)と専属の人がいないと対応しきれなくなります。

送り出しや迎えを兼務する場合もあります。一部のオリエンテーション(案内誘導や資料配布など)業務には地元の中高生が参加することも少なくありません。中高生から支援の希望があれば、こうした活動に取り組んでもらうことも効果的です。

◆ コーディネート係

ボランティア受付の情報と、ニーズ(ボランティア依頼)の情報を元にコーディネート(調整)します。単純に「その日のボランティア:ニーズ」という関係だけでなく、都道府県域を超えた支援や長期的な支援、大人数の継続的な活動との調整なども含まれます。

言葉で説明する分には簡単なのですが、実際にやろうと思うとかなり複雑で慎重な判断を迫られるケースがあります。負担も大きくなるので、できるだけ複数人で手分けをしつつ協力して業務にあたります。専門的な知識や経験を備えた方(社協や支援団体の職員等)もいますので、そうした方々の力を借りるのも有効です。

ただ「専門的な経験がある」ことが優れたコーディネーターの要件ではありません。「なんとなくテキパキ動いていくれる、地元の元気なおじちゃん・おばちゃん」といった方が、効果的なコーディネーター的役割を果たしている場合も多々あります。

普段から地域とのつながりを持っている方々、防災活動などに取り組まれている方々のちからを活かすことがとても重要になります。

◆ マッチング・送り出し係

コーディネートが完了したものをボランティアに伝え、チーム編成やリーダーの指定、活動についての個別オリエンテーション、出発から報告までの流れの説明などを担当します。ある程度慣れているボランティアの方であれば、流れや注意事項などはわかっているので多少省略することもできますが、どこに何があるか分からない、次にどうしたらいいか迷ってしまう、といった初めての方が多い場面では重要な役割です。

資機材・車両管理版

ボランティアが使用する資機材や車両の管理をします。活動によっては資機材や車両の数が非常に多くなるので、ボランティア向けと災害VC運営向けは分けてください。災害VC内部の資機材や車両の管理は総務で管理すると、ボランティア用と混在しにくくなります。

安全衛生・医療班

ボランティアの安全衛生のための案内・周知、靴や資機材の消毒、応急手当等を行います。資機材管理班と活動エリアが近くなります(戻ってきたボランティアの泥落としや消毒、各種消毒液や薬品関係の管理など)ので、必要に応じて資機材管理班と共に活動します。

救護班はできるだけ分かりやすい場所に設置し、看護師などの医療従事者や、応急手当の知識がある方にご協力いただきます。また、いざというときのために近隣の医療機関や重篤な症状がある場合の緊急搬送方法なども検討しておきます。

筆者は「できるかぎり目立つ場所に」救護所を設置するよう現場でも工夫していますし、訓練でも看板だけでも良いから出すことを検討してもらいます。ボランティア希望者の方が安心して活動できるためです。

隠れていたり分かりづらかったりすると「ケガや体調不良だと、迷惑や手間をかけそうだから、黙っていよう」という気持ちになり、結果としてリスクを高めてしまう可能性があります。

災害ボランティア活動の流れ

一般的な災害VCにおけるボランティア活動の流れです(下記)。細かい点で違いはあるかもしれませんが、大筋は変わらないかと思います。近年では保険をホームページから加入できたり、ボランティア登録をインターネット上で行える場合もあります。

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(クリックすると拡大します:Flickr 下記教材訓練様式_7)

災害VC訓練用のプログラム教材の開発・提供

実際に災害VCの役割や各班業務を意識しながら行う訓練プログラムについてご紹介します。なお『ロールプレイ』とは、台本(ロールカードという場合もある)に定められた役割に従って演じるものです。今回ご紹介するのは「災害VCの運営スタッフ役」と「一般の個人ボランティア役」に分かれておこなうロールプレイのプログラムです。

教材のダウンロード

下記に教材資料集をzipファイルでアップロードしています。別途「解凍ソフト」が必要な場合があります(WIndows10などではダブルクリックするだけで開けます。うまく閲覧できない場合は個別にお問い合わせください。教材はすべて編集可能・再利用自由です。使用に際しての許可申請なども不要です。ご自由にお使いください。

詳細は上記資料集の中にある「参加者資料_1 ボランティア対応ロールプレイ説明資料」や「参加者資料_2 タイムテーブル等事務資料」を参考にしてください。

実施の様子

教材作成及び写真提供は都内社協様にご協力いただきました。

参加者によるアンケート結果

当日のアンケート結果については下記からダウンロードできます。

まとめ

上記で紹介した教材・プログラムは、大きめの会議室が1つあればできますし、指導員なども必要ありません。実際に、最初は僕がご協力しますが、その後は各社協内部で研修を続けられているところもたくさんあります。

すでにマニュアルがあって、訓練を続けられているところはそちらの参考にしても良いですし、これからマニュアルをつくる、あるいはまだ訓練を実際にやってみたことはない、というときはこちらのサンプルをそのまま使って練習しているのもよいでしょう。

社協職員の皆さま、関係団体の皆さまの教育訓練の一助となれば幸いです。

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